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さようなら。

あの日も、私はお別れをした。引き離されたのか、私から離れたのか、分からないけれども、どちらでもあった。細長いトンネルの奥には手があって、おいで、おいで、と招いて見えた。私はその手に導かれてお別れをした。さようなら、と声に出したら、みんなが手を叩いて笑った。

あの日も、私はお別れをした。私は残されて、あなたが去って行った。あなたの細い固い手に触れて、私は、行かないで、とお願いをした。けれども、あなたはすんなり去って行った。さようなら、も言わずに。体だけを残して。

たくさんのお別れがあった。気付いてちゃんと手を振れた時も、気付けないで後から分かった時もあった。私から去った時も、私から失われた時も、お互いに離れた時も、あった。私はたくさん、お別れをする。色々なものと、様々なかたちで。

さようなら、と声に出したら、さようなら、が響き出す。ひとしずくが波紋になって広がって行く。その波紋が岸辺に手を付ける時、新しい波紋が岸辺から立って、戻って行く。さようなら、が戻って来る。私の元へ、新しい響きで。

あの日、私はお別れをした。生ぬるい水槽に、纏わり付く太陽に、轟いていた行進に、深く深くのやさしさに。私はお別れをして、ここにいる。お別れをしたから、ここにいる。

今日、私はまたお別れをする。さようなら、と手を振ろう。さようなら。

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さようなら、29才の私。初めまして、30才の私。